知り合いにある人がいる。まぁ、仮にS君としておこう。
 この前、彼を含めた何人かで飲む機会があった。彼も俺も含めて皆男、要するに真っ黒黒の飲み会だった。
 で、そういった場合、なんだかんだで行われるのが女の話である。いや、ヲタの場合は全然様相が異なるのだが。そのときは真性のヲタ(要するに2次元があれば他には何も要らないといえるようなw)は自分一人だったので、まぁごく自然にそうなったと言ってよいだろう。
 内容はといえば他愛もないもので、知り合いの誰それを狙っているだとか、誰と誰が付き合っているだとか、誰々が可愛いだとか、この前振られただとか、合コンしようだとか、まぁそんな感じだ。自分としては話す事は殆どないので聞き手に回っていたし、この手の話は話したい奴は実に楽しそうに話すものだ。酒の席という事もあって、舌も実に良く回る。
 でまぁ、適当に耳を傾けていたら、S君が言った。バイト先の女の子に告白して、彼氏がいるからと振られたという話だったのだが。
「彼女さぁ、彼氏がいなかったら俺と付き合っていたね」
 驚いたというか驚かなかったというか、なんというか。
 まぁ、事の真偽はよくわからない。酒の席である以上、気が大きくなっているのだろうし、男同士でも見栄を張りたいものだ。第一、その相手の女性を見たことがないので、実際のところは何とも言えない。
 ただまぁ、思うことは、『何でこいつは、自分が好かれているということをそんなに簡単に信じられるのだろうか』という事だ。
 俺は自分が好かれているなんて、そう簡単に思えない。むしろ嫌われてやしないかと、いつもびくびくしている。人間は本心を見せないものだ。男だって女だって。俺だって嫌いな奴ともそれなりに折り合いをつけて生きているし、わざわざそんな事を口に出そうともしないし、できるだけ表情に出さないように気をつけてもいる。社会ってそういうもんだと思う。わざわざ相手が嫌いだと示してむやみに波風立てる必要もない。日本人的事なかれ主義かもしれないが、むやみと波風立てる奴は疎まれるのも事実だ。
 実際のところ、どうなのかはよくわからない。本当に彼女が彼に好意を抱いていたのか、彼が彼女の社交辞令を受けて勘違いしたのか。
 まあ、真実はどうでも良い。俺には関係のないところでそれが行われている限り。
 ただ、俺には自分が他人から好意を持たれているなんて無邪気に思うことはできない。男同士の単純な友情関係ならともかく、男女関係じゃ特に。ただ、無邪気にそう思えるのなら、そいつはよっぽどたくさんの好意を受けてきたか、単に鈍いか、それとも自意識感情な馬鹿だというだけだろう。
 こういうのが勘違いすると、ストーカーとかドキュソとか言われるようになるのかな、と思ったのはここだけの秘密だ。まぁ、それが、ここでこうして趣旨のよく分からないテキストを書いて、結局一人な奴とどっちがましなのかは俺の決める事じゃないが。