東方ノ欠片:ルーミア



 夜。
 朝も昼も無い。
 ただ、夜。


 ルーミアは夜を操る。
 ルーミアは闇を操る。


 しかしルーミアには闇を操っているという自覚も無い。
 なぜなら、彼女の周りは常に夜だからだ。
 空気のようなもの。
 在る事を意識せずとも在るもの。


 なにしろ、彼女は夜以外の時間を過ごした記憶が無いのだ。
 生まれてきてからこの方一度も。


 もっとも、その記憶もかなり怪しいのだが。
 あっさりと3日前のことを忘れ去っていたりする。
 でも気にしない。
 幻想郷の妖怪の例に漏れず、ルーミアは記録する事にも記憶する事にもそれ程興味がないのだ。
 単に能天気なだけかもしれない。
 一応言っておくと、脳が天気なわけではない。
 ある意味あっているけど、等と一部の住人は言うが。
 でも本人は気にしてないらしい。
 能天気だから。


 ふわふわ、ふわふわ。
 ふわふわふらふらと漂って。
 面白そうなものを見つければ、たまにちょっかいを出してみたりする。


 たまに楽しかったりする。
 たまにつまらなかったりする。
 あっさりと興味をなくしたりもする。
 しばらく見ていたりもする。
 弾幕ごっこになる時もある。
 たまに痛い目にあったりもする。


 でも、気にしない。
 能天気だから。


 お子様なのだ、という住人もいる。
 後悔せず反省せず省みず。
 確かにお子様なのかもしれない。


 実際の年は誰も知らない。
 誰も気にしない。
 本人も気にしない。
 というかそもそも、妖怪に年齢の概念はない。
 少なくとも、気にする奴は幻想郷には殆どいない。


 だから、お子様というのは適切でないのかもしれない。
 でも、そんな事はどうでも良いとみんな思ってるので、誰も何も言わない。


 ふわふわ、ふらふら。


 夜になると機嫌が良いらしい、と誰かは言う。
 彼女の回りはいつも夜なのに、夜になると機嫌が良いというのは矛盾してないか、とは誰も言わない。
 そういうものなのか、と思うだけだ。


 本人は気にしない。
 能天気だから。


 そんな彼女は。
 ふわふわふらふらと、今も幻想郷の空を漂っている。