東方ノ欠片:魔理沙



 世の中には二種類の蒐集家がいる。


 蒐集したものを愛でるために蒐集する収集家と。
 蒐集する事自体が目的となった収集家だ。


 魔理沙は割りと後者に属する。
 少なくとも、周囲からはそう見られている。
 否定しても良いのだが。
 周囲からどう見られているか、なんてことは割とどうでも良かったりする。
 何しろ此処は幻想郷なのだから。


 それに第一。
 この高く積みあがった本の山や、家中のありとあらゆる所に積まれたアイテムを見れば。
 まぁ、仕方ないかな、という気もするのだ。
 特にこの、天井近くまで積みあがった山だけはどうにかしないとな、とか思ったりもする。
 でも、思うだけ。


 もちろん、理由はある。
 整理整頓しない理由が。


 魔法のアイテムはそれそのものが力を持つ。
 力を引き出す事もあるし、そうしなければ普通のアイテムと変わらないものもある。
 しかし、そこに"存在する"だけで魔力を放つものの方が圧倒的に多いのだ。
 そして、当然のことながら。
 魔力は干渉する。
 お互いが干渉して、強めあい弱めあい反応しあい。
 時には、思いもしなかったようなことが起こる時もある。


 だから、ある程度は組み合わせても問題の無い、或いは無反応の組み合わせで置く事になる。
 そうしていくと、どうしても無造作に積むような形になってしまうのだ。


 とはいっても、実際、それ程厳密にやっているわけではなく。
 ぽいっと、その辺に置いてしまうこともあったりするのだ。
 それが魔理沙のあずかり知らぬところで何か反応を起こしている可能性もある。


 だが、それでいいと思っている。
 『万物は流転する』、という大昔の誰かの言葉を持ち出すまでもなく。
 魔力は流れ、堆積し沈殿し、そしていつかまたどこかに流れゆくものなのだ。


 安定は澱みを生む。
 安定こそが、既知こそが尊ばれる理由は無い。
 道理はあるかもしれないが、魔法使いにそんなものはないし、何より幻想郷に無い。


 だから、この家には。
 魔理沙も知らない"何か"が既にあるのかもしれない。


 ただまぁ。
 それも僅かずつだから面白いのであって、一度に起こったら混乱しかもたらさない。
 別に、変化は望むかもしれないが、混乱を望むわけではないのだ。


 とりあえず、目下のところの心配事は地震だったりする。
 崩れて雪崩れて下敷きに。
 ぞっとしない。


 そこで、ふと。
 揺れるのは地面であり、家の底面が接地しているから揺れるのであるのだから。
 家を浮かせば地震の心配はなくなるかな、と思う魔理沙だった。