初恋。
何時の頃からか、僕の目は彼女を追っていた。
片桐さん。去年からのクラスメート。
引っ込み思案で、いつも不安そうで。小柄で、遠慮がちで、『ごめんなさい』って、謝ってばかりで。儚げで、肌が綺麗で真っ白くて。実は頭が良くて、だけど数学だけは苦手で。読書が好きで、昼休みとか放課後はよく図書室にいて。
そして、笑顔がとても素敵で。
そんな彼女のことが気になって、いつの間にか目で追うようになって、いつの間にかたまに話すようになって。そしてやっぱりいつの間にか、僕は彼女に、恋をしていた。
だから、気付けば彼女の姿を目で追っている。
知り合いと話している時も、授業中も、食事中も、登下校の時も。
いつも、視界の隅に彼女を探している。
教室の中に。ふと見た窓の外に。
僕は、一年中、彼女の事を見ていた。
春。中庭のベンチに座って、缶の紅茶を両手で持って、ゆっくりと飲んでいた。
夏。校庭の隅の木陰で、流れ出る汗を手に持ったタオルで拭っていた。
秋。美術の課題の写生で、何気ない風景を大切に描いていた。
冬。木枯らしの吹く駅の片隅で、冷えた手に息を吐きかけて温めていた。
そう、気がつけば彼女の事を見つめていた。
だから知っている。
彼女には好きな奴がいることも。
いつもそいつの姿を目で追っていることも。
そいつには彼女がいて、それが彼女の片思いな事も。
昼休み、教室を出て行く彼女の姿を見て。
それから数秒遅らせて、僕も何気なく教室を出て、彼女のあとを追って。
校舎の裏の方から、走り去って行く彼女の姿を見た。
ちらり、と覗いてみれば、あいつの姿。
隣には女の子もいる。たしか、あいつの彼女だ。
二人の体は密着している。顔と顔が近づいている。キス、してたんだ。
僕は彼女の走り去って行った方を見た。
もう見えない彼女の背中に向かって、呟くように語り掛ける。
僕を見て。
僕の方を見て。
僕の事を見て。
僕の事だけを見て。
あいつの事なんて見ないで。
僕に答えて。
僕の気持ちに気付いて。
僕は、君のことが好きです。
僕は、君のことが大好きです。
だから、僕の事を、見て。
お願いです。
僕の事を、見て。