お題:「夕焼けの土手を通り一緒に帰宅する少年と少女の図を用い暮秋を描け」
くじさんの所より。
「終わっちゃったね」
「……そうですね」
それは祭の後の寂しさ。
学校がとても賑やかだったのは昨日まで。先輩にとっては最後の行事となる文化祭。それも終わってしまえば酷くあっけない。
「先輩」
「なに?」
「……」
「……」
「やっぱりなんでもないです」
そう言うと、先輩は不満そうに、
「何それ。気になるなぁ」
「別に……大した事じゃないです」
「いいから。言ってよ、ねぇ?」
「何でもないですって」
むー、と先輩はふくれて見せる。
僕は苦笑するしかない。
「吉成君」
「なんですか」
「言って」
「何をですか」
「さっき言いかけたこと」
「何でですか」
「聞きたいから」
「ヤです」
「どうして」
「言いたくないから」
「なんで」
「恥ずかしいから」
それを聞くと先輩は軽く笑って、
「そうなの?」
「僕にとっては」
「ふーん。……じゃ、ますます聞きたくなった」
笑みが強くなる。
しまった、と思う。この笑みをした先輩に勝てた事なんて一度も無い。
「ねぇ。吉成君」
「ヤです」
「……まだ何も言ってないよ?」
「ヤです」
「……」
「ヤです」
「言って」
「嫌です」
「いいから言って」
「絶対ヤです」
「言いなさい」
「何があっても言いません」
「本当に?」
「絶対」
「……そう」
そう言って先輩は立ち止まる。
2、3歩先に進んで、振り向いて。先輩の方を見た。
逆光。
強い夕焼けに目を刺され、思わず目を細めた。
先輩を見る。輪郭は影。表情は見えない。
そして、おもむろに――
キスされた。
「奪っちゃった」
「……」
「これで、言う気になった?」
「……全然」
「そう」
先輩の頬は夕日に染められて赤いに違いない。良く見えないけれど。
「じゃあ次は襲う」
「誰をですか?」
「吉成君」
「……ますます言う気がなくなりました」
「そう」
微笑んで、
「じゃ、うちまで連行する」
「嫌だと言ったら?」
「言っても」
そう言って先輩は僕の腕を取った。
そのままずりずりと引きずられるように歩いて、
「ねぇ、吉成君。晩御飯は何がいい?」
「何でもいいです」
そう答えて。
"寂しいですか"なんて聞かなくて良かったと思った。
『逆光』2kb 45min End