『半分の月がのぼる空』

橋本紡電撃文庫


少し前に読んだ本なのだが、紹介。


なんと言うか、この、橋本紡と言う作家は、『日常と、その先にある僅かな非日常』を書くのが非常に上手いと思う。
それは、なんでもないような事で、ひどく地味な事なのだが、でも、そこにある空気みたいなものが、とても好きだ。
話の内容は、本文中で端的に表している言葉があったのでそれを書く。


 ひとつ、断っておく。
 これは、なんでもない、ごく普通の話だ。
 男の子と女の子が出会う、ただそれだけの話だ。
 つけくわえることはなにもない。
 まあ、それなりにいろいろあったわけだが、そういうのはたぶん、世界中のありとあらゆる場所で起きている本当に深刻なことに比べれば(たとえば何百万人も死ぬような飢餓とか、バカで乱暴な独裁者による戦争とか、株の大暴落とか)、たいしたことじゃないんだろう。
 そう、なんでもない、ごく普通の話だ。
 もちろん、僕たちにとって、それは特別なことだったけれど。
 いや、ちょっと違うな……。
 僕たちにとっては、本当に本当に特別なことだったけれど。