なんとなくSS。
『自転車』
「ねえ、洋介」
「何だそこのちっちゃいの」
ぼーっとしていると、妹の絵美が話しかけてきた。
容姿は十人並み、143cmの身長が悩みらしい。
「自転車の調子が悪い」
「は?」
「走らせようとすると、ぎーぎー音がして」
「知るか、んな事」
「えー?」
「うるせーなー……自転車屋でも行ってこいよ」
「めんどくさいよー」
「俺だってめんどくさいわ阿呆」
いきなり何を言い出すかと思えば。
要するにこいつは俺をこき使いたいらしい。
「いいじゃん別に」
「良くない」
「いいからやっといてよね、これから学校なんだし。どうせ暇なんでしょ?」
「暇じゃない。俺には重要な用事が……」
「あーもーいいからよろしく。じゃ、いってきまーす」
そう言って家を飛び出していく。確かにそろそろ遅刻しそうな時間ではある。
しかし。
「……やるか、んな事」
§
「何でやっておいてくれないのさー」
帰ってきた絵美は開口一番そう言った。
どうやら、帰りにわざわざ自転車置き場まで行って調べてきたらしい。
「めんどくさかったから」
「どうせ暇だったんでしょ。やっておいてくれてもいいじゃん」
「昼寝するのに忙しかったんだ」
「……また寝てたの?」
「悪いか?」
「はぁ、もういいや」
「じゃ、俺は部屋へ……」
そういって逃げ出そうとしたが、襟を掴まれて引き止められる。
「今から行こ」
「……マジ?」
「マジ」
「時間は?」
「まだ十分明るいよ」
「めんどくせぇ」
「いーから行くよ、ほら」
ずるずると引きずられていく。脳内でドナドナが流れていた。
§
行ってみると、単にブレーキがずれていただけだった。
単純な故障だが、すぐに直せるものでもない。
「こりゃ無理だな」
「そうなの?」
「せめて工具が欲しい。素手じゃ無理だ」
「じゃあ、仕方ない、か」
「自転車屋に行ってこいよ。このくらいならすぐに直してくれる」
「はぁ……」
そういってため息をつく。
「ま、頑張れ」
俺はそういって歩き出した。
絵美も後からついて来た。